●第十四回公演『彼方の空から』

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そこには1本の色鉛筆が立っていた。大きな大きな、それはまるで天を支える柱のような色鉛筆。その巨大な色鉛筆の周りを埋め尽くす、鉄骨とガレキとコンクリートの山々。

此処ではない何処か、今ではないいつかの国。その国では「人類月面到達」を目指した宇宙計画が大詰めを迎えていた。完成間近の多段式月ロケット。訓練にいそしむ宇宙飛行士、シロー。計画の中心で今日も議論と実験を重ねる将軍と士官。ミサイル開発の経験を買われ、出向してくる女性技官。反目しつつも進む最終調整。打ち上げ場には今日も情報と安らぎを与える放送が響き渡っている。

「でっかい大砲で月まで行こう!」

子供達の夢は、大人達の野望になり、今まさに現実となりかけていた。しかし……。

打ち上げ当日、突如上層部より通達される「中止」の命令。軍とは言いながら戦わぬロケット部門、莫大な費用を投じながらなおも足らぬという宇宙計画、世の誰も望んではいない月面到達に、ついに解散の命が下った。軍人である以上、逆らうことは「死」を意味する。けれどここで諦めることは…!

轟音と共に空に舞い上がる巨大な色鉛筆。空の彼方、遙かな月を目指し走り出したシロー。重力を振り切り、空の天井を目指し、切り離されていくロケット達。…おかしい。何かが違う。こんなはずじゃあ! ついに歩みを止めてしまうシロー。その脳裏に去来するのは懐かしき子供時代。

「月まで遠足!」

夢がまだ本当だったあの夏の日々。いつも一緒だった4人の子供達。イッタ、フタバ、サツキ、そしてシロー。チビ先生に教えられ、夢中になって読んだジュール=ヴェルヌ作『月世界旅行』。皆で作ったオモチャのロケットは、確かに月を目指して飛んでいた。

「返事をせんか!」

通信機の向こう、地上で絶叫する大人達。月への軌道修正、シローを月まで届けるために奔走する138人のスタッフ達。そこへやってきた監察局将校が将軍の更迭を宣言する。

「僕は……」

1人の少年が、月に行く理由とは果たして……。
三八○,○○○キロメートルの距離を超え、空気も、水も、光さえない月世界でシローは……。

この物語は、月にウサギを見た人々のお話。彼方の月を、目指して。